河野さんのマリモブログが絶賛連載中ですが、今日はちょっと別の話題を。
6月15日から19日、東京・有明にて、国際研究会 Cool Stars 23 が開催されました。およそ600名の研究者が世界中から集まった大規模な研究会です。ABCも協賛しており、私を含めABCの研究者や学生も、オーガナイザーやサポートスタッフとして長らく運営に携わってきました。今日は参加者(&運営)目線でクールな一週間を振り返ってみます。

この研究会は Cool Stars 、つまり「低温度星」の研究会ですが、低温度星の定義は特に定まってはいません。多くの参加者に共通している認識は、「太陽と同程度か、それより温度の低い天体」。天文学的にいうと、G、K、M型星や褐色矮星が主な対象です。生まれたばかりの恒星から、年老いた赤色巨星まで。また、恒星の周りの円盤や惑星系も議題のうちに入ります。
元々は、「Cambridge Workshops on Cool Stars, Stellar Systems and the Sun」という名前の研究会で、1980年1月、アメリカのケンブリッジで開催された小規模ワークショップが始まりだったとのこと。それから Cool Stars シリーズとして、およそ2年ごとに開催されてきました。あのミシェル・マイヨール博士とディディエ・ケロー博士が、世界で初めての系外惑星「ペガスス座51番星b」の発見を初めて報告したのは1995年の Cool Stars 9 でした。彼らの発表の後、会場はスタンディングオベーションだったとか。歴史のある研究会です。近年はアメリカ合衆国とヨーロッパの国々で交互に開催するのがお決まりになっていましたが、今年は初めてのアジア開催として日本が選ばれました。

私はコロナ禍明けの2022年にフランス・トゥールーズで開催された Cool Stars 21、2024年にアメリカ合衆国・サンディエゴで開催された Cool Stars 22 にも参加してきました。2年ごとに、観測や解析の技術がどんどん向上し、業界の潮流も移り変わっているのを感じます。2024年の Cool Stars 22 では、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による成果が多数報告されました。今年の Cool Stars 23 では、それらの観測結果をどう解釈するかという、よりテクニカルな解析手法や理論モデルについての発表が多かった印象を受けました。
私が着目しているのは「(年齢1億歳以下の)若い惑星」と、「恒星の磁気活動」です* が、それらについても興味深い発表が多くありました。若い惑星の軌道や大気の観測結果が続々と報告され、これらを説明できる惑星形成・進化過程の統一的な理論が求められているのを感じます。私たちのポスター発表では、年齢300万歳という非常に若いトランジット惑星について、軌道の傾きを調べた研究について紹介しました。原始惑星系円盤などの研究をしている方々から興味を持っていただき、有意義なポスターセッションとなりました。この研究成果はやがて論文になる予定なのでお楽しみに。
また、若い惑星の観測には恒星の影響がつきものです。惑星が若いということは恒星も若く、若い恒星はフレアや黒点といった磁気活動が非常に活発なのです。これらは惑星のシグナルを検出する際のお邪魔モノになるため、どう除去するかが重大テーマです。最近のCool Starsでの発表からは、これらの影響を「ノイズ」として統計的に処理するのではなく、観測事実から恒星物理を正しく理解し、それらを反映したモデルを作ろうという業界の流れを感じます。まだ「これが正解」という手法が見つかっているわけではないので、様々な手法を比較検討し、より高精度化していくことは今後の重要な課題となると思います。
(*私のこれまでの研究についてはこちらのプレスリリースもどうぞ: 黒点を横切る惑星が伝える、傾いた惑星系の姿)
さて、Cool Stars は世界中から研究者を集めた「お祭り」のような一面もあり、会議期間中には様々なイベントが開催されます。日曜日には日本科学未来館でのレセプションとトークイベント、火曜日には若手研究者が進路について意見交換できる「Young Astronomers’ Lunch」や特別レクチャー、火曜日にはグループに分かれて東京観光するエクスカージョン、木曜日にはバンケットが開催されました。
特別レクチャーでは、同志社大学・京都大学名誉教授の柴田一成先生に、「Discovery History of Superflares」と題してご講演いただきました。柴田先生らは、太陽に似た恒星で「スーパーフレア*」を発見し、太陽でも低い確率でスーパーフレアが発生する可能性を示した研究で世界的に知られています。京都大学をはじめ、日本はフレアや恒星磁気活動の研究において世界をリードする成果を挙げています。講演では、壮大な音楽とともに太陽の黒点やフレアの様子を映し出すアート作品を交えながら、その物理やスーパーフレア発見に至る経緯についてお話しいただきました。
大学生も解析に参加したという、柴田先生らの興味深い研究の舞台裏については、天文月報の記事もぜひどうぞ。
▶︎「特集:太陽型星におけるスーパーフレア (1)スーパーフレア研究はいかに始まったか」(天文月報2014年5月号)
(*スーパーフレア: フレア(恒星表面での爆発現象)のうち、太陽で起こる最大級のフレアのエネルギーに比べ100倍以上大きいエネルギーを持つ現象。)
私は広報・Web担当をしながら、エクスカージョンやバンケットの準備のお手伝いをしていましたが、海外の人たちは日本に来てどんなことを楽しみたいのかな、と想像することは、改めて日本や東京の魅力を発見するきっかけにもなりました。特にバンケットではけん玉や折り紙を用意した「日本の遊び体験ブース」を作ったのですが、これが大人気でした。世界中の研究者たちが無邪気にけん玉をしている姿はかなりほっこりするものがありました(笑)

実際のところ、今回の Cool Stars 23 は運営の仕事でずっとバタバタしていましたが、レセプション、エクスカージョン、バンケットなど、一つ一つのイベントが大きな問題なく終わっていくと、その度に安堵と、少しの寂しさで一息つくのでした。今回 Cool Stars の運営に携わらせていただいて、大きな研究会の成功は、驚くほどたくさんの人々の協力と、長い時間をかけた準備の賜物なのだということを実感しました。今後研究会に参加した時は、オーガナイザーへの感謝と共感で溢れそうです。もっとこうしたかった、ああすればよかったという反省は多数ありますが、また今後こういった研究会運営の機会があれば、ぜひ生かしていこうと思います。
そしてバンケットで発表された次回の Cool Stars 24 開催地は……シドニー!
2年後の2028年7月、なんと、オーストラリアで皆既日食が見られる7月22日に合わせて開催されます。これはなんとしても行かなければなりません……。Cool Starsに参加するたび「もう前回から2年経ったのか」と驚きますが、またあっという間に2028年がやってくるのでしょう。次回こそ口頭発表ができるような素晴らしい研究成果を携えてシドニーに向かうべく、これからの2年間もがんばります。
森 万由子(アストロバイオロジーセンター)
