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【雑記寄りの参加報告】第14回 宇宙における生命ワークショップ(ABCワークショップ)

東岡崎駅から岡崎コンファレンスセンターへ向かうたび、いつも行列に目を奪われるのが、人気グループ「東海オンエア」ゆかりのコーヒースタンドです。駅からの道すがら「今日こそは一杯…」と思うのですが、結局そのまま会場へ吸い込まれてしまうのがいつものパターン。最近では東京の虎ノ門ヒルズにも店舗ができたそうで、岡崎で果たせなかった「宿題」を意外な場所で片付けられるかも、と少し親近感を抱いています。

さて、本題に入ります。2026年2月12–13日に、愛知県岡崎市の自然科学研究機構・岡崎コンファレンスセンターにて「第14回 宇宙における生命ワークショップ(ABCワークショップ)」が開催されました。今回のワークショップは、令和7年度のABC公募研究に採択された20件の成果発表会の場でもあります。12日に3セッション、13日に2セッションの計5セッションで構成され、各セッション4名ずつ、1件あたり20分の発表が行われました。天文学、地球科学、生物学など多様な分野から発表が集まり、個々の研究成果の共有にとどまらず、異分野連携を通じて日本のアストロバイオロジー研究の発展を目指す趣旨が全体を貫いていたように感じます。今年度から生駒大洋氏が新センター長に就任され、心機一転の場となりました。さらに、ABCワークショップはこれまで東京都内(国立天文台三鷹キャンパスや都内会議施設等)での開催が続いてきたため、岡崎での開催は多くの参加者にとって新鮮な刺激となったようです(過去に岡崎開催があったという話も耳にしますが、真偽は確認できていません)。

写真1:岡崎コンファレンスセンター
開催2日間はいずれも快晴で、駅とセンターの往復(坂道ではありますが)でも、汗ばむくらいの過ごしやすい天候でした。12日は基礎生物学研究所とABCのスタッフの皆さんが朝早くから集合し、会場設営などの準備に取り組んでくださいました。コーヒーブレイク時のお菓子や飲み物も充実していました。各回40分の休憩時間が確保されていましたが、セッションの議論が盛り上がることが多く、実際には10分ほどに短くなることもしばしばでした。

分野の壁を越えて「生命の痕跡」を探る

発表のステージには、天文学、地球科学、生物学と、普段はなかなか交わることのない専門家が集結しました。観測・実験・理論という異なるアプローチから「生命が成立し得る環境とは?」「生命が残す痕跡とは?」という共通の問いに挑む様子は、まさにアストロバイオロジーの醍醐味です。分野が違うと、同じ言葉でも定義が異なったり、前提とする尺度が違ったりします 。そのため、質疑では前提の確認から議論が始まる場面も多くありましたが、むしろその過程が研究の接点を浮かび上がらせ、次の共同研究の可能性を具体化する時間になっていたと思います。2日間を通じて興味深い発表が続き、大変勉強になりました。

写真2:新センター長による開会の挨拶
生駒新センター長より、アストロバイオロジーセンターがこの10年で取り組んできた歩みや、今後の目標について簡潔な紹介がありました。センター長の挨拶の後、いよいよセッション開始です。
写真3. ポスター会場
内部公募採択者を中心に、15枚ほどのポスターが掲示されました。写真中央に写っているのは、ABCの活動を紹介するポスターです。天文学関連のポスターは写真や図がとても美しく、見ているとプラネタリウムにいるような気分になりました。

私は今回、内部公募の採択者としてポスター発表を行いました。ポスター発表は、講演の合間の休憩時間や懇親会の場で実施されました。懇親会ではお寿司やお酒などをいただきながら、研究の背景や方法、今後の展開について率直な意見交換が行われました。私は、「阿寒湖のマリモ」を対象とした生理生態学的研究を紹介しましたが、特別天然記念物という珍しさもあってか、多くの方が足を止めてくださいました。異分野の視点から飛んでくる質問や助言は、自分一人では気づけなかった研究の多角的な整理に繋がり、将来の共同研究に向けた具体的な手応えを得ることができました。

写真4. 懇親会の様子
懇親会はポスター会場で行われ、多くの方が参加されました。豪華なお寿司を中心にさまざまなアラカルト料理が並び、手毬寿司もあって会場はとても華やかな雰囲気でした。料理とお酒を囲みながら、約2時間半にわたって楽しい会話とポスターを介した議論が続きました。

(長い)余談になりますが、「阿寒湖のマリモ」について、簡単に紹介します。阿寒湖(あかんこ)は北海道釧路市の北部にある湖で、火山の活動と深い関わりをもって生まれた湖です。周辺には「阿寒カルデラ」と呼ばれる大きなくぼ地があります。カルデラとは、火山の大きな噴火のあとに地面が大きくへこんでできた地形のことです。阿寒湖は、こうした火山地形の成り立ちのあと、雄阿寒岳(おあかんだけ)の噴火や地形の変化によって水の流れがせき止められ、そこに水がたまってできた湖(「堰止湖(せきとめこ)」と呼ばれます)です。阿寒湖の北側にあるチュウルイ湾とキネンタンペ湾では、世界でも珍しい「球状」のマリモが集まって群落をつくる様子が観察できます。マリモは、淡水にすむ糸状性の緑藻で、学名は Aegagropila brownii です。よく知られているのは丸い「球状型」ですが、実はそれだけではありません。糸のかたまりが水中を漂うように浮いている「浮遊型」や、岩などに付着して育つ「着生型」など、いくつかの“暮らし方(生活形)”があります。丸くなくても“マリモ”なんです。阿寒湖のマリモが特に注目される理由の一つは、その大きさです。直径30 cmを超えるような巨大な球状マリモが確認されている湖は、現在のところ世界でも阿寒湖だけとされています。こうした希少性と学術的価値の高さから、阿寒湖のマリモは1921年に国の天然記念物に、1952年には特別天然記念物に指定されました。なお、国の天然記念物に指定されている藻類は8種あり、そのうち特別天然記念物に指定されている藻類は阿寒湖のマリモ1種のみです。よく「マリモの研究がなぜ宇宙に繋がるの?」と聞かれます。実は、環境の変化(光や温度、酸素濃度)に生物がどう応答し、それがどんな「痕跡」として残るのかを追うマリモの研究は、系外惑星の環境と生命活動の関係を考えるうえで、面白いモデルケースになり得るのです 。このあたりの話は、また別の機会に紹介できればと思います。

話を元に戻します。私は光合成関連セッションの座長を務めました。このセッションでは、光合成生物が置かれ得る光環境の多様性、環境条件に応答した集光・光利用の戦略、そしてそれらが地球史や生命探査の文脈でどのような意味を持つのかが、複数の切り口から議論されました。現生生物の生理学的理解と、地質試料や地球環境の復元とが同じ枠組みで接続され、条件(環境)・機能(代謝)・痕跡(シグナル)の関係を往復しながら議論できた点が印象に残っています。座長として学びとなったのは、異なる背景をもつ参加者が議論に入りやすいよう、丁寧な橋渡しを意識しなければならないということでした。

基礎生物学研究所の見学ツアー

ワークショップ終了後には、希望者を対象に基礎生物学研究所の見学ツアーが開催されました。基礎生物学研究所は、自然科学研究機構に属する大学共同利用機関として、細胞や遺伝子といったミクロな階層から、個体のしくみ、さらには生物が環境に応答する仕組みまでを、幅広い視点で解き明かすことを目的とした研究拠点です。研究者が最先端の装置や解析基盤を共用できる体制が整っており、分野の異なる研究が同じ場所で並走し、互いの強みを持ち寄りやすい環境がつくられています。また、本研究所は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典先生が教授として在籍し、研究を推進した拠点の一つとしても知られています。大隅先生の受賞対象となった「オートファジー」は、細胞が自分自身の成分を分解して再利用する仕組みで、飢餓などの環境変化に適応するうえで重要な働きを担います。酵母を用いた遺伝学的研究によって、この仕組みを支える要素が体系的に明らかになったことで、生命科学の多くの分野へ研究が広がりました。今回の見学は、ワークショップで交わされた分野横断の議論を、実際の研究インフラや研究史と結びつけて具体的に想像できる、よい機会となりました。

写真5. 大型スペクトログラフ
ワークショップ終了後には、基礎生物学研究所の見学ツアーが開催されました。光学解析室を占める巨大な分光照射装置は圧巻で、その存在感に思わず見入ってしまいました。室内を満たすレインボーカラーの光は、まさに“虹光乱舞「Dancing Spectrum」”という雰囲気でした(Final Fantasy VIで魔導士ケフカとの戦闘で流れる“妖星乱舞「Dancing Mad」”の聖楽のような雰囲気を模して表した造語)。この装置を用いた研究から、これまで多くの知見が得られてきたことにも、あらためて驚かされました。

見学した設備のうち、特に印象に残ったのが大型スペクトログラフです。これは、試料に照射する光の「波長(色)」を精密に制御できる分光照射装置で、昭和54年(1979年)に設置された世界最大級の超大型設備が、現在も稼働していることに驚かされました。紫外域から近赤外域(250–1000 nm)までを高強度で照射でき、波長は0.2–1 nm刻みで調整可能で、一般的なLED光源よりも細かな条件設定が可能です。光合成の研究者として、光の条件をここまで厳密に設計できる点は非常に魅力的で、「あれも測れる、これもできる」とアイデアが止まらなくなりました。これまで実現が難しかった測定系も、装置の使い方を工夫することで実行可能だと具体的に見通せたことは、大きな収穫でした。

写真6. 質量分析装置室の見学
トランスオミクス解析室を案内していただき、質量分析装置や次世代シーケンサーなどの最新機器を見学しました。多様な装置が並ぶ光景は圧倒的で、参加者からは次々に質問が出るなど、関心の高さがうかがえました。いつかマリモでも測ってみたいです。

さらに、オミクス解析装置(次世代DNAシーケンサーや質量分析装置など)も見学しました。オミクス解析とは、遺伝子・タンパク質・代謝産物といった生体情報を「網羅的に」読み解く手法で、環境変化に対する生物の応答を分子レベルで捉えるうえで重要な基盤になります。最新機器が体系的に整備されている様子は圧倒的で、阿寒湖の球状マリモも将来、こうした解析基盤のお世話になる場面があり得ると感じました。マリモが解析装置を次々と旅する様子は、ちょっとした研究の冒険のようです(マンガ参照)。光学解析室は天文学を専門とする参加者にも親近感があった一方で、オミクス装置や植物栽培・藻類培養施設の見学は新鮮に映ったようで、同じ施設見学でも専門によって着目点が異なることが印象的でした。研究対象は違っても、「観測・計測・解析」という共通言語が対話を支えることを、改めて実感しました。

絵. マリモの研究の冒険(生成AIで作成)
マリモがいろいろな解析装置を渡り歩く様子は、いささか科学の冒険のようでもあります。1. 光を当てて反応を見る → 2. DNAを読む → 3. 分子組成を測る → 4. 培養環境で維持・回復、という流れを「マリモが研究設備を旅する」形で一本のストーリーにしてみました。
1コマ目の大型スペクトログラフは、光の波長や強度を精密に設定して、光合成の応答(例:酸素発生速度、クロロフィル蛍光、CO2固定速度、光阻害の程度など)を条件比較するイメージです。2コマ目のDNAシーケンサーについて、本来はマリモそのものを入れるのではなく、マリモ由来の組織から抽出して精製したDNA溶液をライブラリ調製し、フローセル等にロードして装置で塩基配列を読み取ります。絵はその一連の流れを「マリモが直接入っている」形にデフォルメしています。3コマ目の質量分析装置は、マリモそのものを装置に置くのではなく、抽出した成分を前処理して導入し、どんな分子がどれくらいあるかを網羅的に測る、という流れです(オミクスの一部としてのメタボロミクス等)。4コマ目の藻類培養室は、環境条件(光・温度・栄養塩など)を整えて維持培養したり、実験用に条件を振って増殖・応答を観察する場面に相当します。

おわりに

今回のワークショップは、学術的な学びに加えて、研究者同士が直接対話し、次の連携の芽を見つける場としても大変有意義でした。発表者・参加者の皆さま、そして運営に携わられた皆さまに感謝申し上げます。今後もこのような分野横断の場を通じて、国内のアストロバイオロジー研究が着実に広がっていくことを期待します。

最後に、今後の関連イベントの案内になります。一般公開されるセッションもありますので、興味のある方は是非ご参加ください。

(1)第50回 生命の起源・アストロバイオロジー学会 学術講演会
2026年3月26日(木)–28日(土)に、岡崎コンファレンスセンターで開催されます。口頭発表・ポスター発表に加え、ABC特別セッション(NISS公開)「ハビタブル惑星と生物進化」、学会賞受賞記念公開講演(一般公開)、若手交流会など、交流企画も充実しています。
https://sites.google.com/nibb.ac.jp/jsola50/home

(2)JpGU-AGU Joint Meeting 2026(日本地球惑星科学連合 2026年大会)
2026年5月24日(日)–29日(金)の6日間、千葉市・幕張メッセでハイブリッド開催されます。多分野が集う大規模大会で、ABCスタッフがコンビナーを務める「系外惑星」セッションも予定されています。また一般の方向けに、研究成果をわかりやすく紹介し研究者との交流も目的とする「パブリック・セッション」が設けられており、2026年大会では全13件が企画されています(聴講は無料です)。
https://www.jpgu.org/meeting_j2026/program.php

アストロバイオロジーセンター特任研究員 河野 優