本発表の研究成果は、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの公募研究(サテライト研究、プロジェクト研究)によるものです。
プレスリリース本文
発表のポイント
- 原始地球で利用可能だったと考えられるアミノ酸を中心に、12種類の限られたアミノ酸からなる「原始的酵素モデル」を構築しました。
- アミノ酸の種類を減らすことで、生命のエネルギー通貨であるATPをADPからつくる、もとの酵素では見られなかった機能が現れることを発見しました。
- もとの酵素の機能に必須の触媒ヒスチジンを持たないにもかかわらず、活性部位の再配置により、従来とは異なるATP生成の仕組みが生じた可能性を示しました。
- 本成果は、生命初期のエネルギー変換がどのように始まったのかを考える新しい手がかりとなり、進化に埋もれた酵素機能の発掘や人工酵素設計にも新たな可能性を示します。
概要
現代のタンパク質や酵素は20種類のアミノ酸※1からつくられています。しかし、生命が誕生した初期の地球では、現在ほど多様なアミノ酸を自由に使えなかった可能性があります。早稲田大学人間科学学術院の赤沼 哲史(あかぬま さとし)教授、八木 創太(やぎ そうた)講師と理化学研究所生命医科学研究センターの田上 俊輔(たがみ しゅんすけ)チームディレクター、Subrata Dasgupta研究員らの研究グループは、現代の酵素よりも少ない種類のアミノ酸から原始的な酵素を作製し、その機能を詳しく調べました。その結果、アミノ酸の種類を減らした酵素が、もとの酵素にはない仕組みでATP※2をつくる反応を触媒できることを発見しました。ATPは生命活動に必要なエネルギーを受け渡しする中心的な分子であり、「生命のエネルギー通貨」とも呼ばれます。今回の成果は、アミノ酸組成が大きく制限された酵素であってもATP生成を担えた可能性を示しました。さらに、アミノ酸組成を制約することで、進化の過程で失われた古い機能や別の機能が発掘されることを示唆しています。この研究成果は、生命初期のエネルギー変換の起源を考える上で重要な手がかりとなるだけでなく、タンパク質・酵素進化や人工酵素設計にも新たな視点を与えることが期待されます。
本研究成果は2026年10月10日(土)に『Angewandte Chemie International Edition』に掲載されました。
キーワード:
生命のエネルギー通貨、ATP、原始的酵素モデル、アミノ酸、ATP生成機能、エネルギー変換、進化、人工酵素設計

用語解説
※1 アミノ酸:
タンパク質を構成する基本単位です。現代の生物は主に20種類のL-アミノ酸を使ってタンパク質をつくっていますが、生命が誕生した初期の地球では、利用できるアミノ酸の種類が現在よりも限られていた可能性があります。本研究では、そのような初期地球の条件を考える手がかりとして、使用するアミノ酸の種類を制限した酵素を作製しました。
※2 ATP:
アデノシン三リン酸の略称。地球上のすべての現存生物の細胞内でエネルギーの受け渡しに使われる分子であり、「生命のエネルギー通貨」とも呼ばれます。
※3 ATP生成反応:
生命活動に必要なエネルギー分子であるATPがつくられる反応です。本研究では、2分子のADPからATPとAMPが生成するADP不均化と呼ばれる反応に注目しました。これは、一つのADPからもう一つのADPへリン酸基が受け渡されることで、ATPとAMPがつくられる反応です。
※4 ヌクレオシドニリン酸キナーゼ(NDK):
ほぼすべての現存地球生物が持つ酵素で、ATPやGTPなどのヌクレオシド三リン酸の末端のリン酸基を、ADPなどのヌクレオシド二リン酸に受け渡す反応を触媒します。現代のNDKでは、触媒ヒスチジンと呼ばれるアミノ酸残基が反応に重要な役割を果たします。
※5 ADP:
アデノシン二リン酸の略称です。AMPはアデノシン一リン酸と略されます。ATP、ADP、AMPはリン酸基の数が異なる分子で、細胞内のエネルギー変換に深く関わっています。
論文情報
雑誌名:Angewandte Chemie International Edition
論文名:Switching ATP-Forming Phosphoryl-Transfer Chemistry with a Restricted Set of Amino Acids
執筆者名(所属機関名):八木 創太(早稲田大学、理化学研究所)、Subrata Dasgupta(理化学研究所)、田上 俊輔(理化学研究所)、*赤沼 哲史(早稲田大学)
掲載日時(日本時間):2026年10月10日(土)(オンライン掲載)
掲載URL:https://doi.org/10.1002/anie.2166480
DOI:10.1002/anie.2166480
研究助成
研究費名:科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽) 19K21903
研究課題名:原始環境に存在したと推定されるアミノ酸のみで発現可能なタンパク質機能の探索
研究代表者名(所属機関名):赤沼 哲史(早稲田大学)
研究費名:科学研究費補助金 基盤研究(B) 21H01200、23K20903
研究課題名:全生物の共通祖先から遡る原始タンパク質のアミノ酸組成の探求
研究代表者名(所属機関名):赤沼 哲史(早稲田大学)
研究費名:科学研究費補助金 基盤研究(B) 26K00825
研究課題名:プレバイオティックアミノ酸と環境因子による原始タンパク質の構造形成と機能創発
研究代表者名(所属機関名):赤沼 哲史(早稲田大学)
研究費名:自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター サテライトAB022003
研究課題名:タンパク質の起源に纏わる「鶏と卵のパラドックス」の解決による地球と宇宙での生命誕生場の推定
研究代表者名(所属機関名):赤沼 哲史(早稲田大学)
研究費名:自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター プロジェクト研究AB031007
研究課題名:隕石中のアミノ酸組成を持つタンパク質の再構成
研究代表者名(所属機関名):赤沼 哲史(早稲田大学)
研究費名:自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター プロジェクト研究 AB0609
研究課題名:宇宙にありそうなアミノ酸から触媒活性を持つ酵素をつくる
研究代表者名(所属機関名):赤沼 哲史(早稲田大学)










