いよいよ7月も下旬に入り、関東甲信地方では梅雨が明けました。夏本番です。天気予報で予想最高気温に40℃と表記されてる地域もあるくらい、猛暑日が続いています(夏日、真夏日、猛暑日はあるけど、酷暑日ってあるんでしょうか?熱帯夜はありますが、真夏夜、超熱帯夜もある?)。予想気温で“40℃表示”はこれまで見たことない気がします(汗)。外に出た瞬間、強い日差しとむっとした空気に包まれて、「出掛けるのやめようかな?」と思ってしまいます(汗汗)。
こうした時期に特に気をつけたいのが、熱中症ですね。熱中症というと、炎天下で長時間過ごしたときに起こるもの、というイメージがあるかもしれませんが、室内でも起こりますし、寝ている間にも起こることがあるようです。夜のあいだに室温が上がり、さらに自分では気づかないうちに汗をかくことで、体の水分が失われてしまうためだそうです。寝る前の水分補給はもちろん、冷房も欠かせません。設定温度は26〜28℃を目安にしつつ、扇風機も併用して、無理のない範囲で快適に過ごしたいところです。暑さを我慢するより、体を守ることを優先しましょう。環境省の熱中症対策資料でも、睡眠時の暑さ対策として冷房の使用が重要であることが示されています。
さて、そんな暑さのなかでも、休日になるとつい街を歩きたくなるものです(実は暑いのは結構好き)。先日、東京・中目黒を散策していたとき、偶然「ABCラーメン」という看板を見つけました。後で調べたら、1977年創業、銀座で47年続いた老舗ラーメン店が、2024年12月に中目黒へ移転オープンしたお店とのこと。
アストロバイオロジーセンターを略すと「ABC」なので、名前を見た瞬間に勝手ながら親近感が湧いてしまい、そのまま吸い寄せられるように入店しました(映画のタイトルにも「ABC of 〇〇」てのを見かけたことがあります。流行るんでしょうか)。店内はきれいで落ち着いた雰囲気があり、店員さんもとても親切でした。席も「お好きなところへどうぞ」と案内してくださり(これ、地味に重要)、散策で少し疲れた体にはありがたい空間でした。ラーメン(細麺と太麺を選べました。こういう選択肢があると嬉しくなります)とチャーハンを注文しました。スープも麺も食べやすく、チャーハンもおいしくて、休日の散策途中に立ち寄るにはぴったりのお店でした。どうやら餃子も名物のようなので、次に訪れるときはぜひ餃子も試してみたいところです。

ということで、本題に入りましょう。第2回・前編では、マリモが1個の生物ではなく、糸状体が集まった集合体であること、そして「着生型」「浮遊型」「集合型」という3つの生活形を紹介しました。今回の中編では、視点を少し広げて、マリモが世界のどこに分布しているのか、そして阿寒湖のマリモが過去にどのような変化をたどってきたのかを見ていきます。途中では、最近の論文で話題になっている「学名変更」の話にも少し触れてみたいと思います。長くなったので①~③に分けました。
🟢 マリモは世界のどこにいる? 北半球に点在する不思議な藻類
マリモには「着生型」「浮遊型」「集合型」という3つの生活形があることを紹介しました。私たちがよく知っている丸いマリモは、そのうち「集合型(球状型)」にあたります。しかし、世界全体で見ると、マリモは必ずしも丸い姿で暮らしているわけではありません。阿寒湖のような大型の球状群落は例外的で、多くの産地では小型の球や着生・浮遊の状態で暮らしています。
では、マリモは世界のどこに生育しているのでしょうか。
マリモは、日本だけにいる生き物ではありません。学術的には、北半球の冷涼な地域を中心に分布する淡水性の緑藻として知られています。Boedeker らの研究(2010a, b)では、標本庫に保存されている標本、過去の文献、現地観察の記録をもとに、マリモの世界分布が詳しく調べられました。その結果、マリモは淡水域や一部の汽水域*1 を含む283地点から記録されており、その多くは中央ヨーロッパから北ヨーロッパに集中していました。
(*1 汽水:海水と淡水が混ざった水)
「マリモ」と聞くと、どうしても北海道・阿寒湖のイメージが強いかもしれません。しかし、世界地図上で見ると、マリモの記録はヨーロッパ側にかなり多く分布しています。特にスウェーデン、ドイツ、イギリス・アイルランド、日本、ロシアなどから多くの記録があります。ヨーロッパでは淡水湖だけでなく、バルト海沿岸のような塩分の低い汽水域にも分布している点が特徴的です。
ここで少し面白いのは、マリモが「どこにでもいる藻類」ではないという点です。
淡水性の藻類のなかには、鳥や水の流れ、人間活動などによって広く運ばれ、世界中にコスモポリタン(普遍種)として分布するものも少なくありません。ところが、マリモの場合は少し事情が違います。マリモは乾燥に強い休眠胞子*2 のような特別な耐久構造をほとんど作らず、主に糸状体の断片化(バラバラにちぎれること)によって増えると考えられています。そのため、長距離を移動して新しい湖に定着する力はあまり高くないと推定されています。
つまり、マリモは北半球に広く分布している一方で、実際にはかなり「移動が苦手な藻類」なのです。
(*2 休眠胞子:乾燥などの厳しい環境を生き延びるためにつくられる、丈夫な胞子。)
では、なぜそのような藻類が、ヨーロッパや日本、アイスランド、北米の一部など、離れた地域に点々と分布しているのでしょうか。ここで関係してくるのが、過去の氷河期です。
Boedekerらは、現在のマリモの分布には、更新世の氷河期の影響が残っている可能性を指摘しています。特に、現在の記録密度が高い中央・北ヨーロッパの多くは、かつて氷河に覆われていた地域です。一見すると不思議ですが、氷河の周辺には氷でせき止められた湖や、氷河の後退に伴って形成された水域が存在し、そうした場所がマリモの避難場所、あるいは再分布の足がかりになった可能性があります。
一方で、分布は連続しているわけではありません。日本とヨーロッパの間には、シベリアや中国北部など、一見するとマリモが生育できそうな地域が広がっています。しかし、Boedeker らの調査では、これらの地域から確かな記録はほとんど見つかっていません。そのため、マリモの分布は、日本とヨーロッパの間が大きく途切れた「飛び地状」の分布である可能性が指摘されています(ただし、これらの地域が十分に調査されていないだけ、という可能性も残されています)。
このように見ていくと、マリモは「世界中にどこでもいる普通の藻類」ではなく、冷涼な北半球の水域に点在し、過去の地球環境の変化を反映しながら現在まで生き残ってきた貴重な藻類だといえます。丸い姿のかわいらしさとは裏腹に、その分布の背景には、氷河期、湖の形成、分散能力の低さといった、かなりスケールの大きな物語が隠れています。
そして、ここで改めて重要になるのが、阿寒湖のマリモの特別さです。
マリモという藻類そのものは、北半球の各地に分布しています。しかし、大きな球状の集合体が美しく群生する場所は、世界的に見ても非常に限られています。アイスランドのミーヴァトン湖(Mývatn)では、かつて直径約12 cm以上の大型の球状マリモ群落が知られていましたが、その群落は過去数十年の間に大きく縮小し、現在では消失したと報告されています。Einarsson(2014)の報告書では、大型球状マリモ群落は、ミーヴァトン湖以外では日本の阿寒湖とウクライナの湖のみだったこと、そしてその衰退が光環境の悪化・泥の埋没・藍藻ブルームの激化(背景に湖内採掘と富栄養化)と関係していることが述べられています。
つまり、「マリモがいる湖」と「巨大な球状マリモが群生する湖」は、まったく意味が異なります。
マリモという種は世界に点在しています。しかし、阿寒湖のように、直径30 cmに達するような大型の球状集合体が湖底一面に広がる場所は、現在では極めて限られています。私たちが阿寒湖のマリモを特別天然記念物として守っている理由は、単に「丸くてかわいいから」ではありません。世界的に見ても、阿寒湖が非常に特殊で奇跡的なマリモの生育環境をいまなお保っているからなのです。

📌 ちょこっと余談:日本にもいろいろな「マリモ類」がいる
世界分布を見ていくと、マリモは北半球のあちこちに点在しているようでいて、実はかなり限られた条件のもとで生きていることが分かります。しかも、丸い集合型、とくに大型の球状マリモとなると、その条件はさらに厳しくなります。
ここで少し、日本国内のマリモ分布にも目を向けてみましょう。
日本で「マリモ」と聞くと、多くの方がまず思い浮かべるのは、やはり北海道・阿寒湖の丸いマリモでしょう。阿寒湖は、大型の球状マリモが群生する場所として世界的にもきわめて重要です。一方で、マリモという藻類そのものは、阿寒湖だけに生育しているわけではありません。
1. 日本国内の産地リスト
日本国内では、北海道の阿寒湖のほか、チミケップ湖、釧路湿原の塘路湖(とうろこ)・シラルトロ湖・達古武湖(たっこぶこ)、本州では青森県の小川原湖(おがわらこ)、山梨県の西湖・山中湖、滋賀県の琵琶湖などから、マリモの仲間が報告されています(シラルトロ湖(神田1979)、達古武湖(神田1980)、塘路湖(神田1982)、チミケップ湖(Soejima et al. 2009)、本州の各湖(Soejima et al. 2009)、山中湖(Tuji et al. 2021)など)。ただし、阿寒湖以外の場所で見つかるものの多くは、私たちがイメージするような丸い球状体ではなく、岩などにくっついて育つ「着生型」や、水中に漂う「浮遊型」に近い姿です。つまり、日本国内でも「マリモがいる場所」と「丸いマリモが見られる場所」は、分けて考える必要があります。
2. 湖ごとに生活形が違う
この点は、Soejima ら(2009)の研究でも重要なポイントとして示されています。阿寒湖・チミケップ湖・達古武湖・小川原湖・西湖・琵琶湖の6湖で採集されたマリモを調べたところ、阿寒湖では球状集合体・浮遊型・着生型が見られる一方で、他の湖では着生型(西湖などは半浮遊性の着生型)が確認されています。特に、球状のマリモが自然状態でまとまって見られる場所は、日本では阿寒湖に限られるとされています。
3. 「丸いかどうか」で分けられるのか ── 塘路湖(とうろこ)のトロマリモ
ここで、少し昔の研究の面白い歴史をご紹介します。
釧路湿原の塘路湖には、古くからマリモの仲間が知られていました。ただし、その分類上の扱いは長い間揺れ続けます。1934年、菅野利助氏は塘路湖の藻類を、阿寒湖のマリモとは別の品種として記載しました。理由は、塘路湖のものが不規則な塊にしかならず、きれいな球体をつくらないことでした。1977年の『日本淡水藻図鑑』でも同じ扱いが踏襲され、「トロマリモ」という和名が与えられます。
ここでの分類の決め手は、はっきりと「丸くなるかどうか」でした。
これに異を唱えたのが、北海道教育大学釧路分校の神田房行氏です。神田氏は1979年から1980年にかけて塘路湖で採集を行い、顕微鏡下で糸状体を丹念に測りました。その結果、糸状体をつくる細胞の太さも長さも、太さと長さの比も、阿寒湖・シラルトロ湖・達古武湖のマリモと変わるところがない、と結論づけます(神田 1982)。
そのうえで神田氏は、「球にならないこと」を分類の根拠にすることそのものを退けました。過去の研究から、阿寒湖のマリモですら、量的には糸状体や不規則な塊の方が多いことが報告されていましたし、人工的に波を与えると球になることも実験で示されていたからです。つまり、「丸いかどうかは環境が決めている。だとすれば、それは種を分ける物差しにはならない」ということです。
ではどこが違うのか。神田氏が注目したのは、塘路湖の藻類が「小さな石にまで仮根*3 でしっかり付着している」という点でした。近隣のシラルトロ湖や達古武湖のマリモは、糸状体の中に小石を含んでいても簡単に洗い流せてしまうのに対し、塘路湖のものは頑固にくっついている。この付着性こそ塘路湖固有の性質だとして、新品種 Cladophora sauterif. toroensis を記載し、和名は先人にならって「トロマリモ」を残しました。
(*3 仮根:藻類やコケなどが岩や石に付着するために出す、根のような細い突起。植物の根と違って水や養分を吸う働きはほとんどなく、その場にとどまるための「錨(いかり)」の役割を担っている。)
丸いかどうかではなく、別の性質(形質)で分ける。分類の根拠が、一段深いところへ移った瞬間でした。
そして現在、この品種区分そのものが姿を消しています。詳細な形態比較(Niiyama 1989)と、続く遺伝子解析(Hanyuda et al. 2002 ほか)によって、トロマリモもフジマリモもカラフトマリモも、日本のマリモはすべて同じ一つの種(分類群)として扱うのが妥当だと分かったからです。
「丸いかどうかで分ける」から「別の形質で分ける」へ、そして「すべて同じ種として分けない」へ。塘路湖の小さな藻類をめぐる約90年は、生きものを何によって区別するのかという科学の問いが、そのまま形になったような歴史でもあります。
4. 遺伝子が示した、もう一つの答え
ところが遺伝子解析は、面白いことに逆向きの答えも用意していました。日本のマリモが一つにまとまっていく一方で、それまでマリモの一種と思われていたものの中から、まったく別系統のものが姿を現したのです。
Hanyuda ら(2002)は18S rRNA遺伝子*4 を用いた系統解析により、阿寒湖のマリモとスウェーデン産の材料が同じAegagropila linnaei に属すること、そしてそれまで広く使われていた Cladophora 属とは異なる独自の系統(マリモ属)に位置づけられることを示しました(※学名については次回詳述)。
(*4 18S rRNA遺伝子:生物どうしの近縁関係(血縁関係のようなもの)を調べるためによく使われる定番の遺伝子。)
5. タテヤママリモ・モトスマリモ、3種の整理
このように、日本には見た目はマリモに似ていても、分類学的には別系統に属する「マリモ類」も存在します。その代表が「タテヤママリモ」と「モトスマリモ」です。
タテヤママリモは、1987年に富山県立山町で見つかったマリモ状の藻類に由来するもので、長らく所属の定まらない存在でした。Hanyuda ら(2002)の系統解析でも「Cladophora sp. Tateyama」として扱われ、阿寒湖のマリモとは遺伝的に明らかに異なることが示されています。その後、この仲間に Aegagropilopsis という新しい属*5 が設けられ、現在ではAegagropilopsis moravica に関係する分類群として整理されています。
(*5 「属」「種」「種小名」:生物の分類や学名(世界共通の生物名)を表す基本的な単位。生物を分類する階級は「界・門・綱・目・科・属・種」と続き、学名は『属名+種小名』の2語で表記する(二名法)。属は、近縁な種をまとめたグループで、種はその中の個々の生物。種小名は、学名の後半にくる、属の中でその種を指し示す部分を指す。)
たとえば、Aegagropila linnaei なら、Aegagropila が属名(マリモ属)、linnaei が種小名で、二つ合わせて「種の名前=学名」になる。人間の姓名でいえば、属名が姓、種小名が名にあたる、と考えると分かりやすい。なお、同じ種小名は別の属でも使えるため、種小名単体では種を特定できない。また、学名は斜体(イタリック)で表記するのが世界共通の慣例。
もう一つのモトスマリモは、もっと最近の話です。2016年、山梨県甲府市の民家の水槽に、マリモ状の藻類が出現しました。2022年にこの藻類が調べられ、遺伝子解析の結果、Aegagropilopsis clavuligera と一致することが分かりました(Tuji and Niiyama 2022)。水槽には、飼育者が本栖湖の湖岸で採取した二枚貝が入れられており、そこから持ち込まれた可能性が高いと考えられたことから、「モトスマリモ」と名付けられました。
つまり、日本で「丸くなる藻類」として確認されているのは、いまのところ次の3つです。
- マリモ(Aegagropila linnaei)── 阿寒湖をはじめ、国内各地の湖沼に分布
- タテヤママリモ(Aegagropilopsis moravica に近縁)── 1987年、富山県立山町で発見
- モトスマリモ(Aegagropilopsis clavuligera)── 2022年に報告された日本新産種
Tuji and Niiyama(2022)も、モトスマリモを「日本で確認された、球をつくるマリモ類の3種目」と位置づけています。同じ「マリモ」という呼び名の下に、実は複数の系統が同居しているわけです。
さらに最近(2024年)、神奈川県川崎市の民家の水槽でも、モトスマリモに近いマリモ状の藻類が見つかりました。飼育者によると、多摩川の河川敷で拾った石を水槽に入れたところ、しばらくして石の表面から緑色の藻類が発生し、やがて丸いかたまりになっていったそうです。国立科学博物館の発表(ウェブ記事「ふたたび見つかったモトスマリモ」)では、この藻類は国内2例目のモトスマリモとして報告されています。
ただし、ここで大事なのは、「多摩川の自然環境の中で丸いマリモが群生していた」という意味ではないことです。現時点では、多摩川で拾われた石に付着していた可能性が高い、という段階であり、自然状態でどのように生育しているのかは今後の調査課題です。
この話は、マリモ研究の面白さをよく示しています。私たちが「マリモ」と一言で呼んでいるものの中には、阿寒湖の特別天然記念物として知られるマリモだけでなく、見た目はよく似ていても別の系統に属するマリモ類が含まれています。しかも、それらは自然の湖底では目立たない糸状体として暮らしていて、水槽のような人工環境で初めて丸くなることもあるようです。
つまり、日本のマリモ分布を考えるときには、「どこにいるのか」だけでなく、「どの種なのか」「どの生活形なのか」「自然環境で丸くなっているのか、それとも水槽内で丸くなったのか」を丁寧に分けて見る必要があります。
そう考えると、阿寒湖の巨大な球状マリモがいかに特別な存在であるかが、さらによく分かります。日本にはさまざまなマリモ類がいる。しかし、阿寒湖のように、自然の湖底で大きな球状体が美しく群れをなして育つ場所は、やはり極めて例外的なのです。

