いよいよ7月、暦の上ではすっかり夏ですね。関東はまだ梅雨明けしていないはずなのですが……ここ数日は「もう明けたのでは?」と思ってしまうほど、強い日差しと蒸し暑さが続いています。6月下旬から7月初旬には、思わず長袖を引っ張り出したくなるような涼しい日もありましたが、そこから一転、本格的な夏が一気にやって来たようです。外を歩いているだけでも汗がにじむ季節になってきましたので、熱中症にはくれぐれも気をつけたいところです。水分補給を忘れず、無理せず冷房も使いながら、暑さと上手に付き合っていきましょう。
さて、そんな暑い日でもふらりと出かけたくなる、私のおすすめカフェ情報(第2弾)をお届けします(勝手にオススメしてるだけですm(_ _)m)。今回は、東京都文京区本郷三丁目にある喫茶店『TIES(タイズ)』さんです。
東京大学の本郷キャンパスのすぐ近くにあるのですが、ここは本当に居心地が良い、知る人ぞ知る隠れ家的な名店です。店内は少し照明が落とされていて、クラシックで落ち着いた大人の空間が広がっています。この静かで上質な空気感がたまらなく、ついつい長居したくなってしまいます。
そして、珈琲とケーキのクオリティは素晴らしいです。こだわり抜かれた一杯の珈琲はもちろん絶品なのですが、お店のショーケースに並ぶケーキたちが、華やかで美しいです。どれもメチャクチャ美味しくて、毎回どれにしようか選ぶのが本当に大変なほど。私のオススメはカシスケーキ。夕方には売り切れてしまうことも多いので、お目当てのケーキがある方は早めの時間を狙うのがおすすめです。一度訪れたら、間違いなくリピートしたくなります。東大の構内やその周辺を散策される際のお供として、これ以上ないほどぴったりな喫茶店です。
ちなみに東大散策といえば、有名な「赤門」を思い浮かべる方も多いと思いますが、残念ながら赤門は現在工事中のため、今はその姿を見ることも、くぐることもできません。赤門そのものは覆われていますが、工事中の赤門周辺の雰囲気を見られるのは今だけです。
美味しい珈琲と華やかなケーキで心も体もすっかり満たされたところで、本日の本題であるマリモのお話へと進んでいきます!

🟢 本編1:緑の「かたまり」は1個の生物じゃない? 顕微鏡で見る「糸状体」の正体
水族館やお土産屋さん、あるいはキャラクターなどを通じて、誰もが一度は目にしたことがある、あの丸くて緑色のマリモ。多くの人は、あの球体を見て「これがマリモという1個の植物、あるいは1個の生き物なのだろう」と思うかもしれません。たとえば、リンゴやスイカのように、あの丸いかたまり全体がひとつの個体である、というイメージです。
しかし、生物学的に見ると、これは少し違います。私たちが「マリモ」と呼んでいるあの緑色の丸いかたまりは、実は1個の生物ではありません。細く短い「糸のような藻類(そうるい)」が無数に集まり、絡み合ってできた集合体なのです。この1本1本の糸のような体を、専門用語で「糸状体(しじょうたい)」と呼びます。
試しに、球状マリモの表面から糸状体を1本そっと取り出し、顕微鏡で観察してみましょう。すると、肉眼で見ていた丸い姿とはまったく違う、ミクロの世界が見えてきます。
糸状体は、長さがおよそ1〜4センチメートルほどの細い緑色の糸です。さらに詳しく見ると、竹の節のように、小さな「細胞」が縦にいくつも連なっていることが分かります。観察していると、1本の糸の途中から、樹木の枝のように新しい糸が分かれている、つまり「分岐」している様子も見られます。
つまり、私たちが「丸くてかわいい」と眺めているマリモは、たとえるなら、無数の緑色の細い毛糸が絡み合ってできた「天然の毛糸玉」のような存在なのです。
ここで、こんな疑問が浮かぶかもしれません。
「それなら、絡み合っている毛糸玉をバラバラにほどいてしまったら、マリモは死んでしまうの?」
実は、ここが藻類のタフで面白いところです。マリモを構成する糸状体は、1本1本が光合成を行い、細胞分裂によって成長する能力を持っています。そのため、仮に球状のかたまりが壊れてしまっても、糸状体そのものが生きていれば、それぞれがまた成長を続けることができます。
観賞用として流通しているマリモであれば、糸状体を1本そっと取り出して、その小さな「1本マリモ」を育ててみるのも面白いかもしれません。もちろん、阿寒湖に生育する天然のマリモは国の特別天然記念物ですので、採取したり傷つけたりすることはできません。
では、世界の各地に存在するこの「糸状の藻類」は、なぜ北海道の阿寒湖という場所で、あれほど見事な球状のマリモへと姿を変えることができるのでしょうか。その秘密を知るために、次はマリモたちの3つの「暮らし方」、専門的には「生活形(せいかつけい)」と呼ばれる姿に注目してみましょう。
🟢 本編2:世界的には丸い方が珍しい?マリモの3つの暮らし方(生活形)
本編1では、マリモの正体が「細く短い糸状体が集まったもの」であることを紹介しました。
ここで多くの人が気になるのは、「では、その糸状体が集まれば、世界中どこでも丸いマリモになるの?」という点ではないでしょうか。
マリモを構成する糸状の藻類は、北半球の限られた地域に分布しています。日本のほか、ヨーロッパ中北部などにも生育地がありますが、多くの地域では珍しい藻類とされています。さらに、私たちがよく知るような丸い姿で暮らしている場所となると、世界的に見てもかなり限られます。
実は、マリモを構成する糸状体には、環境や場所に応じて主に3つの「暮らし方」があります。専門的には、こうした生育の姿を「生活形(せいかつけい)」と呼びます。丸い姿だけがマリモではありません。ここでは、マリモたちの多様な生活形を順番に見ていきましょう。
① 岩にくっついて暮らす「着生(ちゃくせい)型」
1つ目は、岩などの表面にくっついて暮らす「着生型」です。
これは、マリモの仲間に広く見られる生活形です。湖や川の底にある岩、あるいは木片などの表面に糸状体の根元を付着させ、緑色のじゅうたんのように広がって育ちます。一見すると、川底や湖底に生えている普通の藻(も)のように見えるため、これを知らない人が見ても、「あ、マリモだ!」とはまず気づかないかもしれません。しかし、丸くなくても、これも立派なマリモの姿のひとつです。
② 水の中を漂って暮らす「浮遊(ふゆう)型」
2つ目は、水の中を漂いながら暮らす「浮遊型」です。
これは、岩などから剥がれた糸状体や、どこにも固定されていない糸状体が、水中をゆらゆらと漂いながら生きる生活形です。小さな糸くずや綿くずのような状態で、波や水の流れに身を任せながら光合成をして成長します。私たちが想像する丸いマリモとはかなり違う姿ですが、これもマリモの自然な暮らし方のひとつです。
③ 糸状体が集まって丸くなる「集合型」
そして3つ目が、私たちがよく知っている、丸いマリモの姿です。
専門的には「集合型」と呼ばれる生活形で、無数の糸状体が絡み合い、球状のかたまりをつくります。一般に「球状マリモ」と呼ばれるのは、この集合型のマリモです。ただし、この球状の姿は、マリモにとって当たり前の姿ではありません。むしろ、世界的に見るとかなり珍しい生活形です。
特に、直径30センチメートルを超えるような大型の球状マリモが群生する湖は、現在のところ、北海道の阿寒湖だけとされています。阿寒湖のマリモが特別天然記念物として大切に守られているのは、このような世界的にも貴重な特徴を持っているためです。
📌 ちょこっと余談:マリモの仲間?自然界の「集まる」ユニークな生き物たち
「糸状のものが集まって形を作る」というのは、実はマリモだけの特権ではありません。ここで、マリモと同じようにユニークな集合体を作る、自然界の面白い生き物たちを2つ、簡単にご紹介します。
- 陸上のぷにぷに丸:イシクラゲ(学名:Nostoc commune)
雨上がりの地面や芝生で、緑色っぽい「わかめ」や「きくらげ」のような、ぷにぷにした塊を見かけたことはありませんか? 実はあれ、イシクラゲというシアノバクテリア(藍藻類)の集合体なんです。彼らも1細胞は目に見えないほど極小ですが、無数に集まって多糖類のネバネバした物質で身を包むことで、あのような不思議な塊を形成します。乾燥や寒さにめちゃくちゃ強く、宇宙環境に耐えるタフさを持つことでも知られる、マリモの「陸の先輩」のような存在です。
- 極寒の湖底に立つ:南極の“コケ坊主”(モス・ピラー)
もう一つ、マリモに負けないインパクトを持つのが、南極の昭和基地周辺にある湖の底で見つかった「コケ坊主」です。これは藻類ではなく水生のコケ植物(ナガハシゴケなど)なのですが、シアノバクテリアなどのマットから、まるでタケノコのようにニョキニョキと柱状の群落を形成して立ち上がります。大きなものになると、直径30センチメートル、高さ60センチメートルにも達する見事な柱になります。厳しい極限環境のなかで、生き物たちが寄り添い合って巨大なカタチを作る姿は、どこか阿寒湖のマリモとも重なるところがありますね。
💡 おわりに
「岩にくっつくマリモ」や「水中を漂うマリモ」が一般的であるなかで、阿寒湖のマリモは、無数の糸状体が集まった大きな球状体として知られています。丸いマリモは、私たちにとってなじみ深い姿ですが、世界的に見ると決して当たり前の姿ではありません。
では、マリモは世界のどこに生育しているのでしょうか。そして、阿寒湖のマリモは、これまでどのような環境の変化を経験してきたのでしょうか。
続く「中編」では、マリモの世界分布、近年の学名変更をめぐる話題、そして湖底に残された環境DNAから阿寒湖のマリモの歴史をたどる最新研究(Urabe et al. 2025)を紹介します。
さらに「後編」では、マリモの生殖、球状体を育む阿寒湖の風と波、そして巨大な球状マリモの内部構造へと話を進めていきます。
ということで、マリモの基本構造と3つの生活形が分かったところで、第2回の「前編」はここまでです!読んでいただきありがとうございます。

アストロバイオロジーセンター特任研究員 河野 優
