研究活動

想定外の軌道を持つ「小さな海王星」の発見


発表のポイント
  • 宇宙望遠鏡TESS(テス)(*注1)と地上望遠鏡の世界的な観測網によって、4つの赤色矮星(*注2)周りでミニ・ネプチューン(*3)を発見(TOI-782 b, TOI-1448 b, TOI-2120 b, TOI-2406 b)。
  • 4つのミニ・ネプチューンは中心星近傍に存在し、そのうちの3つ(TOI-782 b, TOI-2120 b, TOI-2406 b)は楕円軌道にある可能性が高い。
  • これらのミニ・ネプチューンは地球のような岩石惑星ではなく、海王星に似た惑星かもしれない。
図:発見された系外惑星軌道のイメージ図。主星に近い系外惑星は時間と共に円軌道化しやすいが、今回発見された系外惑星のうち、左下以外の3つは10億年以上の年齢にもかかわらず楕円軌道を維持している。(クレジット:アストロバイオロジーセンター)
概要

自然科学研究機構アストロバイオロジーセンタ−の堀 安範 特任助教、平野照幸 准教授、東京大学大学院総合文化研究科の福井暁彦特任助教、成田憲保 教授らが参加する国際研究チームは、宇宙望遠鏡TESS(テス)と地上望遠鏡の連携観測によって、4つの年老いた赤色矮星(星の年齢は10億歳以上)周りでミニ・ネプチューンを発見しました。

4つのミニ・ネプチューンは中心星近傍に存在する高温の短周期トランジット惑星(*4)で、少なくとも3つのミニ・ネプチューンは楕円軌道にある可能性が高いことがわかりました。一般的に、中心星に近い岩石惑星は時間と共に軌道が円軌道に変化することが知られています。誕生してから10億年以上経過した現在まで歪んだ軌道を保持していることから、これらのミニ・ネプチューンは地球のような岩石惑星ではなく、海王星のような惑星かもしれません。本発見は謎に包まれたミニ・ネプチューンの成り立ちとその姿を解き明かす重要な手掛かりになると期待されます。

 本研究成果は 2024年5月30日に米国科学雑誌「The Astronomical Journal」に掲載されました。


研究背景

地球と天王星・海王星の間のサイズの惑星(ミニ・ネプチューン)は太陽系では見られません。しかし、太陽系外に目を向けてみると、ミニ・ネプチューンは比較的ありふれた存在であることに気付かされます。2021年に打ち上げられたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測ターゲットとして注目を集めるミニ・ネプチューンは一体どのような惑星なのでしょうか?

研究成果

今回の研究では、宇宙望遠鏡TESS(テス)と地上望遠鏡(MuSCATシリーズ(*注5)など)の連携観測によって4つの年老いた赤色矮星周りで謎に包まれたミニ・ネプチューンを新たに発見しました。4つのミニ・ネプチューン(TOI-782 b, TOI-1448 b, TOI-2120 b, TOI-2406 b)は地球半径の約2-3倍程度の惑星で、星の周りをおよそ8日以内で回っています。さらに、ハワイ島 マウナケア山頂のすばる望遠鏡に搭載された近赤外分光装置IRD (InfraRed Doppler)で4つの赤色矮星の視線速度測定(*注6)を実施し、4つの惑星の質量の上限値として地球質量の20倍より小さいという結果が得られました。今回得られた惑星の質量と半径の関係から、4つの惑星は地球のような岩石惑星ではなく、少なくともなんらかの揮発性物質 (例えば、H2Oといった氷物質由来の材料物質や大気)を含む可能性が高いといえます。

 また、4つのうち少なくとも3つのミニ・ネプチューン(TOI-782 b, TOI-2120 b, TOI-2406 b)は楕円軌道にある可能性が高いこともわかりました。一般に、赤色矮星周りの短周期惑星の軌道は星からの潮汐力(*注7)の影響を受けて円軌道化されます。なぜなら、潮汐力により惑星自身がわずかに変形し、それによって生じる摩擦でエネルギーを散逸することで、楕円だった惑星の軌道が円軌道に変化していくことが知られています。しかしながら、10億年以上も年老いた赤色矮星星の周りの短周期ミニ・ネプチューンは現在まで楕円軌道を維持し続けていました。このことから、一つの解釈として、短周期ミニ・ネプチューンがあまり潮汐力の影響を受けにくい内部構造である可能性が考えられます。実際に、惑星の質量と半径の関係からも、4つのミニ・ネプチューンは潮汐力の影響を強く受けやすい岩石惑星でないことが示唆されています。したがって、これらの短周期ミニ・ネプチューンは潮汐力の影響を受けにくい、例えば海王星に似た惑星かもしれません。こうした短周期ミニ・ネプチューンは現在運用中のNASAのジュームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による大気観測のターゲットとしても注目されており、今後の詳細な追観測によって、短周期ミニ・ネプチューンの内部組成や大気への理解がより一層進むことが期待されます。

研究助成

本研究は、科学研究費助成事業(科研費:課題番号JP18H05439, JP18H05442)の支援を受けて実施されました。

用語解説

(注1) 宇宙望遠鏡TESS:
2018年に打ち上げられたNASAの太陽系外惑星探索衛星

(注2) 赤色矮星:
太陽よりも小さく、低温度の星

(注3) ミニ・ネプチューン:
地球より大きく、海王星(地球半径の約4倍)より小さな惑星

(注4) トランジット法:
恒星の前面を惑星が通過する時に、惑星が星の光を一部遮ることで生じる減光現象(トランジット法)を利用して発見された太陽系外惑星

(注5) MuSCATシリーズ:
アストロバイオロジーセンターと東京大学が共同で開発した多色撮像カメラ。今回はスペイン・カナリア諸島のMuSCAT2とハワイ・マウイ島のMuSCAT3を利用。

(注6) 視線速度法:
惑星を持つ星は公転運動する惑星からの重力の影響で周期的に揺れ動きます。恒星の視線方向の見かけの速度変動を観測することで存在する惑星の質量を推定する手法

(注7) 潮汐力:
天体が、別の天体の重力によって形状を変化させる力。地球では、月の重力の影響で海の満ち引きが生じています。

発表雑誌

雑誌名:The Astronomical Journal
論文題名:”The Discovery and Follow-up of Four Transiting Short-Period Sub-Neptunes Orbiting M dwarfs”
著者名:Hori, Y., Fukui, A., Hirano, T. et al.
DOI:10.3847/1538-3881/ad4115
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/ad4115


関連リンク

共鳴し合う6つ子の惑星を発見(2023/11/30)

第二の地球を発見するための新しい多色撮像カメラMuSCAT2が完成(2018/12/17)

第二の地球を探す、新観測装置IRDが稼働!(2018/7/2)

,