概要:
宇宙の中で、この地球は生命が宿る星であり、植物の光合成によって酸素がうみだされ、酸素を豊富にたたえています。これによって、動物など多様な生命が地球に存在できています。自然科学研究機構では、2015年4月にアストロバイオロジーセンターをたちあげ、天文学とさまざまな科学との融合による「宇宙における生命」研究を推進しています。今回、このアストロバイオロジーセンターの成田憲保 特任助教(自然科学研究機構・国立天文台(併任))と、同機構・分子科学研究所の正岡重行 准教授らの共同研究グループは、生命が必ずしもいなくても、酸素を豊富に保持する地球型惑星が存在しうることを理論的に明らかにしました。今回の研究成果は、これまで行われてこなかった天文学と分子科学の融合的研究としても注目されるもので、さまざまな学問分野の連携によるアストロバイオロジー研究の取り組みが重要であることを示しています。本研究は英科学誌サイエンティフィック・レポート(Nature系姉妹誌)の9月10日号に掲載されました。
発表のポイントと意義:
- 太陽系の地球型惑星や衛星などにも豊富に存在している酸化チタンの光触媒反応によって、太陽系外の生命居住可能惑星に、生物が存在しなくても地球と同程度の酸素大気が発生してしまう可能性があることを発見(従来考えられてこなかった新しい酸素大気発生メカニズムを提唱)
- 太陽系外惑星に生命の兆候を探す際に、酸素大気があれば必ず生命がいるというわけではないことを示唆(酸素大気が生命の偽検出になりうることを発見)
- 将来の天文観測によって太陽系外惑星に生命が存在するかどうかを研究するためには、何が生命存在の決定的証拠となるのかについて、さまざまな学問分野の連携によるアストロバイオロジー研究の取り組みが重要(アストロバイオロジー研究の必要性)
研究内容:
これまで、惑星に酸素がある条件として、惑星に光合成を行う生命が存在していることが必須条件のように考えられてきました。現在、宇宙における生命探索が盛んに行われ始めていますが、太陽系外惑星に生命の兆候を探す際に、酸素大気があれば必ず生命がいるという考えから、酸素をバイオマーカーとして生命探索を行うことが考えられてきました。しかしながら、非生物的な化学反応が太陽系外惑星の大気形成に与える影響は、これまであまり考えられてきませんでした。今回、研究チームは、太陽系の地球型惑星や衛星などにも豊富に存在している酸化チタンの光触媒反応によって、非生物的に酸素が発生することに着目しました。その上で、地球に類似した環境の惑星を仮定した場合に、惑星表層の0.05%程度(地球でいえば北海道の面積以下)で酸化チタンの光触媒反応が継続すると、現在の地球と同程度の酸素大気が発生・維持されることが推定できました。また、さまざまな質量・温度の恒星を主星として仮定し、その光強度による惑星での酸素発生可能量を見積もったところ、最もこのメカニズムの反応が起こりにくい低温度星の場合でも、惑星表層のおよそ3%で酸化チタンの光触媒反応が起こると、非生物的に酸素大気が発生・維持されることが推定されました。つまり、光合成を行う生物が存在しなくても、太陽系外の生命居住可能惑星に地球と同程度の酸素大気が発生してしまう可能性が十分にあることを明らかにしました。
研究チームを率いた成田特任助教は、「将来の天文観測によって太陽系外惑星に生命が存在するかどうかを研究するためには、何が生命存在の決定的証拠となるのかについて、さまざまな学問分野の知見を取り入れたアストロバイオロジー研究の取り組みが重要です。今回の研究によって、酸素大気があれば必ず生命がいるというわけではないことがわかり、あらたなバイオマーカーも検討していく必要がでてきました。また、本研究とは独立に、系外惑星の環境でも光合成生物による酸素発生型光合成が可能なのかどうかについてや、先に非生物的に発生した酸素を保持する星で生命が後から誕生することが可能なのかどうかについても、今後のアストロバイオロジー研究として明らかにしていかなければなりません」と言っています。
論文情報:
掲載誌:Scientific Reports
タイトル: Titania may produce abiotic oxygen atmospheres on habitable exoplanets
著者:Norio Narita 1,2,3, Takafumi Enomoto3,4, Shigeyuki Masaoka3,4,Nobuhiko Kusakabe2
所属 1. Astrobiology Center, 2: National Astronomical Observatory of Japan, 3: SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies), 4: Institute for Molecular Science
掲載予定日:2015年9月10日
掲載論文: http://www.nature.com/articles/srep13977
関連リンク:
国立天文台太陽系外惑星探査プロジェクト室プレスリリース
国立天文台プレスリリース