研究活動

アルマ望遠鏡、惑星誕生の現場をピンポイントで特定


アルマ望遠鏡で観測した若い星うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤。円盤は全体的に対称性のよい構造をしていますが、今回の観測で円盤の南西側(図右下側)に小さな電波源が発見されました。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al.
概要

アストロバイオロジーセンターの研究者を含む、国立天文台の塚越崇特任助教らの研究グループは、若い星うみへび座TW星を取り巻く塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)を観測し、円盤内で惑星が作られつつある強い証拠を発見しました。円盤内に、これまで発見されていなかった小さな電波源が存在することを明らかにしたのです。研究グループは、この電波源が (1) すでに形成されつつある海王星サイズの惑星を取り巻く「周惑星円盤」、(2)円盤内で生まれたガスの渦に溜まった塵で今後惑星になりうる構造、のいずれかだと考えています。どちらの場合も円盤内で惑星が成長していく重要な現場を見ていることになり、惑星形成の過程を理解する重要な観測成果です。

研究背景

 近年、太陽以外の恒星の周りで、多様性に富む多くの惑星が発見されています。惑星は、若い恒星を取り巻く塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)の中で生まれると考えられています。しかし、惑星が具体的にどのように周囲の物質を取り込んで成長していくかなど、その誕生と成長過程の詳細には未解明な点が多く残されています。天文学者たちは、原始惑星系円盤を詳しく観測することで、惑星がどのように生まれてくるのかを調べようとしています。

 では、原始惑星系円盤の中で、惑星はどのように作られるのでしょうか?原始惑星系円盤には最初、数マイクロメートルから数ミリメートルの微小な塵が存在しています。その塵は時間とともに合体・成長していき、いずれ微惑星と呼ばれる岩石の塊となります。これが惑星の種となります。そうして作られた岩石の塊は、自身の重力によって周りの塵やガスを取り込みながら成長し、最終的に惑星になります。その際、取り込まれゆく物質は惑星の周囲を回転する円盤状の構造を作ることが、理論的な計算から予言されています。この円盤状構造を、周惑星円盤と呼びます。その大きさは、原始惑星系円盤全体の大きさのおよそ1%程度と、非常に小さなものだと考えらえています。

 『原始惑星系円盤内で形成されている周惑星円盤』を見つけることは、惑星系形成過程の研究にとって重要なテーマの一つです。しかしながら、これまでの観測では、周惑星円盤を見出すには至っていません。近年のアルマ望遠鏡による観測で、原始惑星系円盤内で塵が集まっている様子が発見されてきましたが(注1)、これらは周惑星円盤と考えるには大きすぎます。

アルマ望遠鏡による高解像度・高感度観測

塚越崇 国立天文台特任助教らの研究チームは、惑星誕生の詳細なプロセスを調べるため、アルマ望遠鏡を使って若い星うみへび座TW星を観測しました。うみへび座TW星の年齢は、およそ1000万歳と見積もられています。地球から194光年の距離にあり、このような若い恒星の中では最も太陽系に近くにあります。また、太陽と同じくらいの重さの恒星であることから、私たちの太陽系の起源を知る手がかりになる天体として、これまで多くの観測が行われてきています。

 うみへび座TW星の周囲に原始惑星系円盤が存在することは、これまでの観測からよく知られています。原始惑星系円盤に含まれる塵やガスはマイナス250℃程度と極めて低温であるため可視光を発しません。一方で電波は低温の物質からも発せられるため、電波をとらえることのできるアルマ望遠鏡で盛んに観測されてきました。その結果、円盤は複数の隙間を持つ構造をしていることがわかっています(注2)。円盤は中心を軸にして対称な構造をしており、形成中の惑星に付随する周惑星円盤のような小さな構造はこれまで見つかっていませんでした。

観測結果

今回の観測では、これまで行われてきたアルマ望遠鏡による観測に比べておよそ3倍という非常に高い感度を達成しており、円盤内のより詳細な電波強度分布を描き出すことに成功しました。

 その結果、原始惑星系円盤内にこれまで見つかっていなかった、小さな電波源がひとつだけ発見されました。円盤の南西側、原始惑星系円盤の中心から52天文単位(注3)の位置に、周囲に比べて1.5倍ほど電波が強くなっている場所があったのです。電波源は円盤の回転方向にわずかに伸びており、長さ4天文単位程度、幅は1天文単位程度です。原始惑星系円盤内にこのような微小な電波源が見出されたのは、今回が初めてです。

アルマ望遠鏡で観測した若い星うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al. 
若い星うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤に見つかった、小さな電波源の拡大図。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al.

 この小さな電波源の正体は、何でしょうか?主な可能性としては二つ挙げられます。

 一つの可能性は、周惑星円盤です。今回発見された構造の大きさから、もしこれが周惑星円盤だとすると、その中心には海王星質量程度の惑星がすでに形成されていると考えられます。

 実は、うみへび座TW星から 52天文単位離れた場所には、木星質量程度の重い惑星は存在しないだろうということが、これまでの観測からわかっていました。その理由の一つは、赤外線の観測です。原始惑星系円盤中の重い惑星は、周囲の原始惑星系円盤のガスを集めることにより、赤外線で明るく輝きます。しかしこれまでの観測で、そのような赤外線の点源は確認されていません。もう一つの理由は、中心の星から 52天文単位の位置に、円盤の隙間が見られないことです。重い惑星は、周囲の原始惑星系円盤に重力をかけることにより隙間を作ると考えられていますが、これまでの観測では、そのような構造は見つかっていません。

 以上の事実から、この円盤の中に木星質量程度の重い惑星は存在しないと考えられていますが、海王星質量程度の軽い惑星が存在するかどうかについては、観測の感度の限界により、まだ何も言えない状況でした。今回、アルマ望遠鏡の高い感度と解像度を活かして弱い電波放射を捉えたことで、より軽い惑星が存在する可能性を明らかにすることができました。

 しかし一方で、観測された電波強度は海王星サイズの惑星を取り巻く周惑星円盤と考えるにはやや強すぎる、という問題があります。また、周惑星円盤であれば惑星を中心とした円形であると想定されますが、観測された電波源の形は楕円形でした。そこで、小さいガス渦に溜まった塵が電波源の正体である、という可能性も考えられます。地球上で高気圧や低気圧が発生するように、原始惑星系円盤内でも局所的に渦を巻く流れがたくさん存在すると考えられており、そこに塵が掃き集められて溜まるのです。これは、塵が合体して惑星になる最初期段階として重要な構造といえます。理論的には、渦にとらえられた塵は楕円状に広がると予言されていて、今回の観測によって見出された電波源の構造とよく一致します。一方、そのような小規模の高気圧が、原始惑星系円盤内にひとつだけ存在することは少し不自然です。

このように、「周惑星円盤説」と「ガス渦説」のどちらを取っても観測と一致する部分と不自然な部分があり、今回の研究ではその正体を突き止めることができませんでした。しかし、周惑星円盤であったとしても渦にとらえられた塵であったとしても、惑星形成のプロセスの重要な部分を初めてピンポイントに観測できたという点で、今回の研究は大変大きな意義があります。

今後の研究への発展

今回発見された小さな電波源の正体を明らかにするため、研究グループは、形成中の惑星の兆候をより直接的に捉えることを目指しています。塚越氏は、「形成中の惑星は周囲の物質を取り込む際に温度が高くなるため、周惑星円盤の内縁が特に温められます。アルマ望遠鏡を使ったより高い解像度の観測を行うことで、今回発見された電波源の内部の温度分布を明らかにし、その中心に惑星があるかどうかを確かめたいと考えています。またすばる望遠鏡などを使って、惑星の周囲にある水素が高温になった時に放つ光を観測する準備も進めています。」と語っています。

脚注:

注1:たとえば、若い星MWC758の周囲には三日月状や渦巻き状に集まった塵が発見されています。(参考:2018年6月21日発表の研究成果「多彩な構造を持つ惑星誕生現場 ―若い星MWC 758 の高解像度観測」)

注2:2016年3月31日発表の研究成果「地球に似た軌道を持つ惑星の誕生現場を若い星のまわりで初めて観測」や、2016年9月14日発表のプレスリリース「巨大氷惑星の形成現場を捉えた—アルマ望遠鏡で見つけた海王星サイズの惑星形成の証拠—」などを参照のこと。

注3:1天文単位は地球と太陽の間の平均距離で、およそ1億5000万キロメートルに相当します。52天文単位は、太陽系の海王星軌道半径の約1.7倍に相当します

論文・研究チーム:

この観測成果は、T. Tsukagoshi et al. “Discovery of an au-scale excess in millimeter emission from the protoplanetary disk around TW Hya”として、天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2019年6月10日に掲載されました。

今回の研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。

塚越崇(国立天文台)、武藤恭之(工学院大学)、野村英子(国立天文台/東京工業大学)、川邊良平(国立天文台/総合研究大学院大学/東京大学)、金川和弘(東京大学)、奥住聡(東京工業大学)、井田茂(東京工業大学)、Catherine Walsh(リーズ大学)、Tom J. Millar(クイーンズ・ユニバーシティ・ベルファスト)、高橋実道(国立天文台/工学院大学)、橋本淳(アストロバイオロジーセンター)、鵜山太智(カリフォルニア工科大学/東京大学/国立天文台)、田村元秀(東京大学/アストロバイオロジーセンター)

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(No. 17K14244, 17H01103, 18H05441, 19K03932)、STFC(ST/P000321/1, ST/R000549/1)の支援を受けて行われました。

関連リンク:

国立天文台プレスリリース