研究活動

若い恒星「けんびきょう座AU星」をめぐる惑星を発見


けんびきょう座AU星周りの系外惑星の想像図の動画(NASA)
概要:

自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの成田憲保特任准教授(現東京大学先進科学研究機構教授、JSTさきがけ研究者)らが参加する国際共同研究チームは、NASAのトランジット惑星探索衛星TESSと退役したSpitzer宇宙望遠鏡などによる観測から、太陽系から約31.9光年離れたところにある若い恒星、けんびきょう座AU星のまわりを約8.5日で公転する海王星サイズの惑星を発見しました。若い恒星のまわりの惑星は、惑星がどのように形成してどんな大気を獲得し、主星からどのように影響を受けているのかを調べることができるという点で非常に重要で、これから多くの追観測や理論的研究が行われると期待されます。本研究成果は2020年6月25日に英国の科学雑誌Natureに掲載されます。

研究内容:

けんびきょう座AU星は、南天にあるけんびきょう座(注1)の方向、太陽系から約31.9光年離れたところにある、若い赤色矮星(低温度の恒星)です。けんびきょう座AU星は誕生してからまだ2000万年から3000万年ほどしか経っておらず、誕生してから約46億年が経っている太陽に比べるととても若い恒星です。けんびきょう座AU星は、若い恒星の特徴のひとつとして知られる残骸円盤(注2)を持っていることが知られていましたが、これまで惑星の存在は確認されていませんでした。

 2018年4月に打ち上げられたNASAのトランジット惑星探索衛星TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)は、2018年7月から8月のおよそ27日間にわたって、けんびきょう座AU星の明るさの変化を測定しました。けんびきょう座AU星はまだ若く、自転周期が約4.9日と自転の速い赤色矮星であるため、恒星表面にある大きな黒点の存在や爆発現象であるフレアが頻繁に起きることによって、複雑な明るさの変化をしていました。そこで研究チームは、ガウス過程と呼ばれる統計手法を用いた解析によって恒星由来の明るさの変動を取り除き、惑星が恒星の前を通り過ぎるトランジットという現象に由来する明るさの変化を探しました。

 その結果、約27日のTESSの観測期間中に、2回の同じ形のトランジットが約17日離れて発見されました。しかし、この2回のトランジットのちょうど真ん中あたりには、TESSのデータがありませんでした。これはTESSが地球に向けてデータを送信している間は観測ができないためです。この観測が中断している時間にトランジットが起きていたかがわからないと、公転周期が約17日なのか、それとも半分の約8.5日なのかが判別できません。そこで2019年にSpitzer宇宙望遠鏡(注3)による追加のトランジット観測が行われました。このSpitzer宇宙望遠鏡による観測から、この惑星の公転周期が約8.5日であることが確定しました。

TESSとSpitzer宇宙望遠鏡によるトランジットの観測から、新しく見つかった惑星けんびきょう座AU星bは、海王星より8%だけ大きい(ほとんど海王星サイズの)惑星であることがわかりました。また、この惑星の質量はまだ正確には測定されていませんが、地上望遠鏡による主星の視線速度(注4)の観測から、地球の58倍より小さいことがわかりました。さらに、TESSのデータにはけんびきょう座AU星bとは異なる別のトランジットも1回検出されていて、この惑星系には他にも惑星があることが示唆されています。

けんびきょう座AU星は太陽系から約31.9光年と天文学的には比較的近い距離にあり、主星も明るいため、今後けんびきょう座AU星bの正確な質量の測定や、惑星がどのように形成したのかを調べるための惑星の軌道の傾きの測定、惑星がどんな大気を持つのかの観測など、さまざまな追観測が行われると期待されます。けんびきょう座AU星は、これから多くの追観測や理論的研究が行われ、惑星系の形成と進化を理解するための貴重な宇宙の実験室となることでしょう。

用語解説:

注1 けんびきょう座
南天の星座で、新しい星座なので神話などはありませんが、日本からも見ることができます。秋の空、やぎ座の下、みなみのうお座の西側に位置します。比較的探しやすい場所ですが、肉眼で探しやすい明るさの星はなく、最も明るい星でも4.7等というあまり目立たない星座のため、肉眼で見つけるのは難しいでしょう。また、今回のけんびきょう座AU星は8等台なので肉眼では見えません。

注2 残骸円盤
恒星の誕生時に恒星のまわりに形成される原始惑星系円盤(主に水素ガスや岩石・氷からなる)から水素ガスが消失したあと、微惑星・小惑星などが衝突することによって生じた固体物質(岩石や氷でできた微粒子)からなる、恒星を取り巻く円盤のこと。

注3 Spitzer宇宙望遠鏡
NASAによって2003年8月に打ち上げられた赤外線観測専用の宇宙望遠鏡。系外惑星に限らず、天文学のさまざまな分野の観測に用いられてきましたが、2020年1月30日に退役し、運用が終了しました。

注4 視線速度
観測者から見て天体が近づいたり遠ざかったりする速度のこと。恒星のまわりを惑星が公転していると、恒星もわずかに揺さぶられます。すると光のドップラー効果によって、揺さぶられた視線速度の分だけ恒星が放つ光に含まれる吸収線の波長が変化します。その波長の変化を望遠鏡で観測し、視線速度の変化の大きさを測定することによって、惑星の質量を調べることができます。

論文情報:

掲載雑誌名:Nature

論文タイトル:A planet within the debris disk around the pre-main-sequence star AU Mic

論文著者(*が責任著者):

Peter Plavchan*, Thomas Barclay, Jonathan Gagné, Peter Gao, Bryson Cale, William Matzko, Diana Dragomir, Sam Quinn, Dax Feliz, Keivan Stassun, Ian J. M. Crossfield, David A. Berardo, David W. Latham, Ben Tieu, Guillem Anglada-Escudé, George Ricker, Roland Vanderspek, Sara Seager, Joshua N. Winn, Jon M. Jenkins, Stephen Rinehart, Akshata Krishnamurthy, Scott Dynes, John Doty, Fred Adams, Dennis A. Afanasev, Chas Beichman, Mike Bottom, Brendan P. Bowler, Carolyn Brinkworth, Carolyn J. Brown, Andrew Cancino, David R. Ciardi, Mark Clampin, Jake T. Clark, Karen Collins, Cassy Davison, Daniel Foreman-Mackey,Elise Furlan, Eric J. Gaidos, Claire Geneser, Frank Giddens, Emily Gilbert, Ryan Hall, Coel Hellier, Todd Henry, Jonathan Horner, Andrew W. Howard, Chelsea Huang, Joseph Huber, Stephen R. Kane, Matthew Kenworthy, John Kielkopf, David Kipping, Chris Klenke, Ethan Kruse, Natasha Latouf, Patrick Lowrance, Bertrand Mennesson, Matthew Mengel, Sean M. Mills, Tim Morton, Norio Narita, Elisabeth Newton, America Nishimoto, Jack Okumura, Enric Palle, Joshua Pepper, Elisa V. Quintana, Aki Roberge, Veronica Roccatagliata, Joshua E. Schlieder, Angelle Tanner, Johanna Teske, C. G. Tinney, Andrew Vanderburg, Kaspar von Braun, Bernie Walp, Jason Wang, Sharon Xuesong Wang, Denise Weigand, Russel White, Robert A. Wittenmyer, Duncan J. Wright, Allison Youngblood, Hui Zhang, Perri Zilberman

DOI:10.1038/s41586-020-2400-z

関連リンク:

科学技術振興機構プレスリリース