研究活動

若い惑星の公転面は傾いていない?:惑星系の進化に新知見


図1:太陽以外の恒星を回る若い惑星系のイメージイラスト (クレジット:アストロバイオロジーセンター)
発表のポイント:
  • 2つの若い惑星(けんびきょう座AU星bとK2-25b)が、恒星の前面を通過する現象を、すばる望遠鏡とIRDを用いて赤外線で分析することにより、それらの惑星の公転軸と恒星の自転軸が揃っていることを発見した。
  • 年齢2千万年程度の若い惑星の軌道情報が得られたのは世界で初めて。
  • れは、年齢10億年以上の恒星のまわりで軌道がずれた惑星系が多数発見されていることと対比的。
  • 本観測結果は、惑星は誕生直後から軌道が傾いているのではなく、一部の系では誕生後しばらく経ってから軌道面が傾いたことを示唆。

太陽以外の恒星をまわる惑星(太陽系外惑星)の探索は、これまで太陽のような壮年期の恒星が対象でした。その理由のひとつは、このような恒星は表面活動が少なく、惑星探索が行いやすい点にあります。しかし最近,誕生後間もない若い恒星の近くをまわる太陽系外惑星が次々と発見されています。東京工業大学、アストロバイオロジーセンター、ハワイ大学の研究者らは最近発見された2つの若い惑星系に対して、すばる望遠鏡の新赤外線分光器IRD(アイ・アール・ディー)を用いた分光観測を実施し、それら若い惑星系では惑星の公転軸と恒星の自転軸がいずれもほぼ揃っていることを突き止めました。観測された2つの惑星のうちの一つ(けんびきょう座AU星b)はその公転面が傾いていないと確認された最も若い惑星となります。これほど若い惑星の軌道の情報が得られたことは世界で初めてであり、惑星系の進化の解明にとって非常に重要なデータです。

一般に惑星は時間とともに徐々にその姿(軌道や大気等)が変わることが知られていますが、若い惑星の場合,どこで形成しどのような大気を獲得したのかなど惑星の形成に関わる原始的な情報をまだ保持していると考えられているため惑星系の起源を探る上で貴重な観測対象となります。特に、惑星の軌道の傾き(惑星の公転軸と恒星の自転軸のなす角度)は、惑星同士の重力的な相互作用や恒星との潮汐相互作用によって時間とともに変化することが知られています。従って、惑星がどのような軌道を持って誕生したかを探るには、若い惑星系に対して軌道の傾きを調査する必要があります。これまで惑星の軌道の傾きが調べられた系は100個以上存在し、惑星公転軸が恒星の自転軸とよく揃っているものもあれば大きくずれているものも見つかっていました。ただし、そうした観測はほぼ全て10億年以上の年齢を持つ壮年期の惑星系が対象でした。

今回研究チームは、最近発見されたばかりの「けんびきょう座AU星」、「K2-25」という2つの若いトランジット惑星を持つ恒星[注1]に注目しました。それぞれ「がか座β星運動星団」(年齢約2,300万年)、「ヒアデス星団」(年齢約6億年)と呼ばれる星団に属している若い恒星で、いずれもそのまわりに海王星サイズのトランジット惑星が見つかっています。若い恒星は、壮年期の恒星よりも低温度で、特に今回の2つのターゲットは低温度の恒星であるため可視光線では暗く観測が難しいのですが、赤外線では明るく、観測し易くなります。また、赤外線では若い恒星の活動度の影響が小さくなることも期待されています。そこで研究チームはすばる望遠鏡に搭載された新しい赤外線分光器IRDを用いた観測を実施し,トランジットが起こっている最中に惑星の影がスペクトル中をどのように動いていくかをドップラー効果を用いて調査する「ドップラー・シャドウ」という手法を用いることで、これら2つの惑星はその公転軸が恒星の自転軸とよく揃っていることを発見しました。

惑星系が誕生した直後は、惑星の軌道が傾いていないが、その後、惑星の軌道が傾く場合と傾かない場合がある。
(クレジット:アストロバイオロジーセンター)

このように若い系で惑星の公転面が傾いていないという事実は、これまでの観測結果を解釈する上でも重要な意味を持ちます。太陽系でこそ惑星の公転面はほとんど傾いていないのですが、これまで惑星の軌道の傾きが測定された系のうちかなり多く(約3分の1)のものは大きな傾きを持つ(=惑星の公転軸と恒星の自転軸が揃っていない)ことが知られています。しかし、それがいつどのようなメカニズムで生み出されているのかは長らく議論が続いています。今回、若い惑星系で惑星の軌道面が傾いていなかったという事実は、惑星は誕生した直後から軌道が傾いているのではなく一部の系では誕生後しばらく経ってから軌道面が傾いたということを示唆しています。ただ、若い惑星系のこうした観測はまだ始まったばかりで、今後より多くの若い惑星系で同様の観測を実施することで、傾いた惑星の起源がより明らかになると期待されます。

本研究成果は、T. Hirano et al. “Limits on the Spin–Orbit Angle and Atmospheric Escape for the 22 Myr Old Planet AU Mic b”,E. Gaidos et al. “Zodiacal Exoplanets in Time. XI. The Orbit and Radiation Environment of the Young M Dwarf-Hosted Planet K2-25b”として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ』(2020年8月7日付け),英国天文学専門誌『王立天文学会月報レターズ』(2020年8月14日付け)に掲載されました。

[注1] 恒星の前を惑星が通過して恒星面の一部が周期的に隠されるような系外惑星系を「トランジット惑星系」と呼びます。

関連リンク:

自然科学研究機構 国立天文台すばる望遠鏡プレスリリース