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生まれたばかりの原始惑星への物質落ち込みの証拠となる光を発見

図1:ぎょしゃ座AB星の水素原子輝線(Hα線)の画像。原始惑星ぎょしゃ座AB星 bが、中心星からほぼ南方向に約0.6秒角離れた位置で明確に検出された。星印の0.3秒角以内の領域はマスクされている。(クレジット:T. Currie, アストロバイオロジーセンター)

発表のポイント:

  • 原始惑星「ぎょしゃ座AB星b」に物質が落ち込んでいる(質量降着の)証拠を欧州南天天文台の8メートル望遠鏡(VLT)による分光観測で発見した。
  • 惑星から光のスペクトルは、若い恒星への質量降着の証拠となるものと類似しており、原始惑星で質量降着を示す最初の発見。
  • これは、数例しかない原始惑星の中でも、この惑星が円盤中に埋もれた最も若い原始惑星であることの強い証拠となる。

概要:

生命を育む地球のような小型岩石惑星や木星のような巨大ガス惑星は、太陽のような恒星のまわりで生まれます。その誕生の場は、原始惑星系円盤と呼ばれるガスと塵の薄い円盤状の天体です。原始惑星系円盤は、太陽質量に限らず、重い星や軽い星の若い段階において普遍的に見られ、すばる望遠鏡のような8m級望遠鏡(可視光・赤外線)やアルマ望遠鏡(電波)によって、その詳細な姿が2010年代から明らかになってきました。

しかし、円盤の中の微細な構造(隙間構造や渦巻腕構造)から間接的に惑星の存在が示される例は多数発見されていますが、円盤中に生まれたばかりの惑星(原始惑星)の姿を直接に捉えることは、PDS70 bやc、ぎょしゃ座AB星 b(AB Aur b)など、これまで数例でしか成功していません。これは、原始惑星の多くは原始惑星系円盤に埋もれているため、惑星によって円盤に隙間が出来て見易くなったり、あるいは、円盤の真上からでないと見えなかったりするためと考えられます。また、原始惑星は、周りの円盤から質量を集めて惑星に成長しつつある天体と考えられますが、埋もれている円盤からその質量降着の様子を詳細に分光観測した例はPDS70の惑星系しかありません。

今回、アストロバイオロジーセンター、米国テキサス大学サン・アントニオ校らの研究者を中心とする国際研究チームは、VLT望遠鏡に搭載されたた多天体分光器MUSE(ミューズ)を用いた分光観測により、AB Aur bからの水素原子輝線の検出に成功しました。この輝線は、原始惑星を取り囲む周惑星円盤への質量降着の証拠と考えられます。

背景:

太陽系を超えた遠方にある惑星 (系外惑星) は、1995 年の最初の発見以降、6000個以上も発見されています。その多くは、我々の太陽系にある8個の惑星とは大きく違った性質を持っています。そのような多様な系外惑星はどのようにして生まれ、どのように進化し、あるものは地球のような生命を宿す惑星になれるのでしょうか? この謎を解明するためには、惑星が生まれる現場で、今まさに生まれている若い惑星をとらえることが不可欠です。しかし、観測的な困難さから、年齢が数100万年程度の若い惑星の観測は極めて限られていました。

生命を育む地球のような小型岩石惑星や木星のような巨大ガス惑星は、太陽のような恒星のまわりで生まれます。その誕生の場は、「原始惑星系円盤」と呼ばれる塵とガスの薄い円盤状の天体です。原始惑星系円盤は、太陽質量に限らず、重い星や軽い星の若い段階において普遍的に見られ、すばる望遠鏡などの8m級望遠鏡やアルマ望遠鏡によって、その詳細な姿が2010年代から明らかになってきました。しかし、円盤の中の微細な構造(隙間構造や渦巻腕構造)から間接的に惑星の存在が示される例は多数発見されていますが、円盤中に生まれたばかりの若い惑星(原始惑星)の姿を直接に捉えることは、年齢400万年のPDS70 bやc、年齢が200万年のAB Aur bなど、数例でしか成功していません。後者は、すばる望遠鏡によって2022年に発見されました(注1)。これは、原始惑星の多くは原始惑星系円盤に埋もれているため、惑星によって円盤に隙間が出来て見易くなったり、あるいは、円盤の真上からでないと見えなかったりするためと考えられます。また、原始惑星は、周りの原始惑星系円盤から質量を集めて惑星に成長しつつある天体と考えられますが、埋もれている円盤から原始惑星へ質量降着する様子を詳細に分光観測した例はありません。

研究成果:

今回、アストロバイオロジーセンター(ABC)、東京大学、国立天文台、工学院大学、米国テキサス大学サン・アントニオ校、北京大学らの研究者を中心とする国際研究チームは、VLT望遠鏡に搭載されたた多天体分光器MUSE(ミューズ)を用いた分光観測により、ぎょしゃ座AB星bからの水素原子輝線(Hα輝線)の検出に成功しました。図1は、その水素原子輝線の面分布を表したものです。

この輝線は、原始惑星を取り囲む「周惑星系円盤」への質量降着の証拠と考えられます。一般に、水素原子輝線は若い星やその周辺に多く見られます。とりわけ、原始惑星系円盤にも物質が降着しているため、円盤からの水素原子輝線が拡がっています。私たちが狙っているのは、その円盤にまだ埋もれている、もっと小さな原始惑星を取り囲む周惑星系円盤への物質の落ち込みです。多天体分光器は、天球上に面状に広がった天体の分光観測ができるため、円盤に埋もれた原始惑星の、円盤に起因する放射成分と惑星に起因する放射成分を同時に分光観測できる理想的な装置です。また、可視光で南米チリの良好なシーイングを活かした高解像度(最高で0.3秒角)かつ高い波長分解能(λ/Δλ~3000)の分光観測が出来る点がユニークです。この能力によって、原始惑星と原始惑星系円盤を明確に区別したスペクトルを得ることができました。

今回の観測で、まさにすばる望遠鏡で発見された原始惑星の位置に水素原子輝線が発見されました。そのスペクトルの形状(逆はくちょう座P星プロファイル(注2))は、同様の質量降着を起こしているTタウリ型星(注3)で見られるものと類似していました(図2)。このような形状の水素原子輝線が発見された原始惑星は、これまでAB Aur bだけです。これは、ぎょしゃ座AB星の年齢が約200万年と非常に若く、惑星のまわりにはまだ多量の物質が見られるため、このぎょしゃ座AB星周りの惑星、AB Aur b は、今まさに生まれつつある惑星、いわゆる「原始惑星」であることを強くサポートします。このようなスペクトルが得られている原始惑星は他にはPDS70 bとcしかなく、原始惑星系としては2例目、円盤中に埋もれた原始惑星としては初めての観測になります。(PDS70 b,cは円盤の空隙中にあります。)

図2:原始惑星AB Aur bで発見された水素原子輝線の逆はくちょう座P星プロファイル(青色の線)。1.5太陽質量の若いTタウリ型星であるV354 Monの質量降着のプロファイル(ピンク色の線)と最も似ている。別の原始惑星であるPDS70 bとcのプロファイル(緑色およびオレンジ色の線)とは異なる。それぞれの輝度はAB Aur bに合わせて表示。(クレジット:T. Currie, アストロバイオロジーセンター)

AB Aur b は、木星の約4倍の質量をもち(注4)、主星から地球-太陽間距離の93倍も離れた軌道を公転しています。このような恒星から離れた巨大惑星は太陽系には存在しませんが、どのようにして生まれたのでしょうか?標準的な惑星系形成モデルでは、若い星のまわりの原始惑星系円盤で微惑星が成長し、それがさらに多量の物質を集めて木星のような巨大惑星が形成されるというモデルです。形成後に惑星が主星の近くや遠くに移動したり、散乱したりする可能性も示唆されています。しかし、今回の発見は、惑星移動が起こる間もない時期に、主星から遠く離れた位置で巨大な原始惑星が誕生したことを示しており、標準モデルでも惑星移動・散乱モデルでも説明できません。従って、今回の物質降着の証拠は、太陽系には無い種類の「遠方巨大惑星」は円盤中で自己重力により巨大惑星が形成されるという「重力不安定による惑星系形成」を強く支持します。

本研究成果は、米国の天文学専門誌『アストロフィジカルジャーナル・レター』に2025年9月2日付で掲載されました (Currie et al. "Images of embedded Jovian planet formation at a wide separation around AB Aurigae")。

用語解説:

(注1) すばる望遠鏡による、AB Aur の原始惑星の発見、および、そのまわりを取り巻く複雑な構造を持った原始惑星系円盤の詳細観測については、それぞれ2022年4月4日のアストロバイオロジーセンターとハワイ観測所および2011年2月17日のハワイ観測所プレスリリースをご覧ください。

(注2) 逆はくちょう座P星プロファイル:恒星表面から大量のガスが放出している「はくちょう座P星」という恒星のスペクトルが示す、輝線と吸収線が隣り合う特徴的なスペクトルを「はくちょう座P星プロファイル」と呼びます。「逆」はくちょう座P星プロファイルは、輝線と吸収線の順序が逆になっていて、恒星表面にガスが降着しているTタウリ型星(注3参照)でも見られるプロファイルです。

(注3)Tタウリ型星:恒星がガスの中で誕生し、周囲のガスが少なくなり可視光でも観測できるようになった若い恒星。まだ周囲のガスによる質量降着が進んでいるものもあり、1945年に新しい変光星として発表された恒星の典型がおうし座のT星であったため、このような若い恒星をTタウリ型星と呼びます。

(注4) 誤差を考慮すると、AB Aur b の質量は木星の約4〜9倍程度です。

発表雑誌:

雑誌名:Astrophysical Joural Letters
論文タイトル:”VLT/MUSE Detection of the AB Aurigae b Protoplanet with Hα Spectroscopy”
著者名:T. Currie et al.
DOI: 10.3847/2041-8213/adf7a0

関連リンク

研究ハイライト